AO FILED RECORDING HISTORY-3

 今年に入って2本目の映画のMixがほぼ完成しそうです。相変わらずの宅録映画Mix。と言うことでほとんど自宅にいるんです。毎日少しづつのペースで進んで行きます。煮詰まると海に行ってボディーボード。そしてまたMixという毎日。だんだんそんな生活に慣れて来ました。しかし、自宅でMixをするのはきりがない。毎日見る度に色々と直したくなる。ここらへんが悩みどころです。3/15には完成します。そのあとはKaeru cafeの映画のMixに入り、それが終わると名古屋の映画の2本目のmix。そして昨年からPAをやっているMaiさんのツアーなど忙しくなりそうです。3/20は私の親友とやっているアコースティックライブが仙川のtiny cafeで。3/21は私がbasistとして参加させてもらっているThe hopperのlive。武蔵小山のagainにて。4/5は幡ヶ谷36”5にてsolo弾き語り,遊びに来てください。お話しましょう!

--------------------
1、超職人集団 ダビングの世界
 さて前回は当時の音楽録音について語りました。今回は今のMAの前、いわゆるFilm dubbingの世界を御紹介しましょう。
音響ハウスには、面接の時「ダビングをやります」と訳が分からないまま宣言して入社した訳ですけど、ダビングって一体何?の状態です。ダビングとは“Film dubbing”の事。当時は映像の映写はFilmだったと前回お話しましたが、私が入ったダビングはCMのお仕事でした。まあ最初は当然映写の係なのですが、これに慣れてくるとアシスタントのアシスタントになり、スタジオの中に入って先輩の作業を補助するんです。ここで私は驚異の技を目の当たりにしました。

 今の時代と違い、まだマルチテープレコーダーはなく、当時はステレオのアナログテープレコーダーしか再生する機材がありませんでした。つまり一つの素材につき一台のテレコ(テープレコーダー)が必要になってきます。ナレーション、音楽、効果音の3つをMixするためには三台の再生機と一台の録音機が必要になります。これをどういう風に扱って映像に合わせて行くのか?映像はFilmです。Filmはループ状になっていて、スタートして映像が終わると止まるようにセットされています。Filmにはカウントリーダーというものが頭に付いていて、いわゆる3-2-1などと映像が表示されCMの本編が始まります。アシスタントはこのカウントリーダーをみながら3-2-1-0になったところでテレコをスタートさせて、ミキサーはMixをするわけです。テレコを自動的にスタートさせるシステムでやっているスタジオもありましたが、音響ではマニュアルスタートでした。フィルムはビデオと違い毎秒24コマで回っています。まあマニュアルですのでスタートを正確に行うにはカウントリーダーを正確に読む感覚がしっかりしないと同期がとれません。1コマもずれずにテレコをスタートさせるという神業にちかい作業をアシスタントはやっていました。

 カウントリーダーは24コマではなく20コマのものが多かったのですが、これは感覚的に24コマより20コマのほうが掴みやすいからだそうです。その恐ろしいほどの正確さは鍛練のたまものです。今は音の仕事を行うにも機材がものすごく発達したので“感覚を養う”という練習や修行はほとんどやらなくなりました。ですが、このいつもながらの鍛練が、コマそしてフレームを見る目を育てて行った様です。私達新人は、仕事が終わった後、正確にテレコをスタートさせる練習を毎日のように行って、ミクロの目を育てて行きました。

2、驚異の編集技術 テープエディティング
 編集はというと、アナログテープを切り刻んで行います。現在はレコーダーもデジタル化され、Hard diskに記録されるようになりましたから、音を探して、いらないところを削って、その位置をあげたり下げたりしてタイミングをとりますが、当時はテープに記録された音の頭をスクラブして探し、ダーマトグラフという柔らかい色鉛筆みたいなものでマークして編集します。テープを切る角度は素材によって微妙に変えます。いまでいうFadeカーブみたいな感じ。テープはスプライシングテープというものを貼付けて繋いで行きます。ですが毎回同じ切り口にしないと角度が違ってうまくつなげなくなるんです。テープを簡単に角度をつけてEditする機材はありましたが先輩達はそんなことはしていませんでした。編集するテープを綺麗に揃えて、毎回同じ角度でハサミをいれCutして編集していきます。

 テープスピードは19cm/secもしくは38cm/secで走っていますので、19cm/secで録音すると1コマは約0.79cm。38cm/secで録音した場合は1コマは約1.58cm。何を言いたいかというと、例えば15秒のCMで、あるナレーションを1コマあげたい場合は、19cm/secで録音した素材はそのブロックの前を0.79cm削って、そのブロックの後ろにその削った分をインサートしてあげなければありません。まさしくミクロの仕事です。まあ毎回定規で計る訳にはいかないので、テレコにはコマが計れるテープみたいなものが貼ってあり、そこでコマを計って編集していました。当然私達も編集作業は必死にやるしかありませんでした。“習うより慣れろ”今はほとんど聞かなくなって来た言葉ですが、感覚を身体にしみ込ませるには、くどいくらいの同じ作業、これをくり返す事につきます。

 このようにして毎日テレコのスタート、そしてテープの編集をすることによって、何コマずれていた、とかこれは何コマ前にやれば合う、とかいうものが感覚的に分って来ます。例えば一拍下げて、と言われた場合は何コマ下げれば良い、というのが体得されてきます。今は考える前に+ーkeyをいじり合わせていくやり方ですが、これでは仕事はできても感覚は養われません。今自分がやっていることは、当時の感覚そのままで、正確にフレームを合わせたりできるのも、この頃のお陰かもしれません。

3、いらないものは絶対フェーダーをあげない
 アナログテープの音はとっても良いのですが、ヒスノイズというものがあり、何台ものテレコをミキサーに立ち上げるとS/N比が悪くなり、どんどん音質も落ちて行きます。仕事によってはテレコを6〜7台使う事も有りますから、全部フェーダーを上げっぱなしにすると音が悪い、ということでミキサーでいらない音はフェーダーをCut、もしくはフェーダーを下げていました。フェーダー操作はすべてマニュアル。つまりMixする時には全てのVolumeを正確に操作することが当たり前でした。ただし私が思うに人間が同時に動かせるフェーダーは6〜8本が限界です。ですので素材が全部揃ったらテストを入念に行います。といっても作業スピードも必要なので、いち早く全ての状況を把握する人間が有能なミキサーと言えます。

 人間は修練すると、かなりの能力があり、15秒、30秒のCMの中で操作したフェーダーの事を、ほとんど正確に再現できるようになります。当然目はフィルムを見ていますからフェーダーを見ることはないんです。アシスタント時代に身についたコマの感覚、そして一秒間の感覚などを駆使してMixを行います。上手い人を見ていると、不要なフェーダーはすぐに絞られて、最終的には必要なフェーダーしか上がっていない・・・なんて光景をよく目にしました。当然アシスタントは正確な操作がMix時にも必要なので、全部が一致した時に初めてOKなMixができるのです。時には失敗もあるでしょうが、それが良かったりする時もあります。正確といってもやはり人間ですから毎回全く同じようにはならないんです。これも私は味だと思っています。

 このフェーダー操作は私にずっと身に付いてしまったもので、今やっているPAの仕事にとっても役にたっています。いらない楽器は絶対に上げませんから、、、、これが良い音の秘訣です。ただしリスクも大きいですね。上げ忘れる時もありますから。

4、現在に置き換えると
 今までお話して来たものは過去の話ですが、すべて現在の機材に当てはめる事が出来ます。Hard diskでも編集するときは、スクラブで頭を探してそのPointのちょっと前が本当のEdit pointになりますよね。波形の頭でCutすると、確実に音の頭が切れます。この波形の頭のちょっと前、これはテープ時代も同じで、マークした少し前でCutしないと、やはり頭が切れてしまいます。いまのHard disk recorderはJogダイヤルが優れている機材はほとんどアナログテープを扱うのと同じ感覚なので、かなり昔の技術も有効ですね。

 フェーダー操作ですが、今まではカーブを書いたりいろいろ行いますが、カーブに書き切れないフェーダー操作をコンピューターを使って覚えさせて書き込む操作は、やはり人間の感覚がものをいうので、カーブライティングミックスとは作品の上がりがかなり違うような気がします。人間の指先のほうは、とっても細かい動きをしますので、自分の感覚に近いMixが再現されるかもしれません。是非一度お試し下さい。

 テープの編集の仕方や細かい用語が分かりにくかったかもしれませんがweb siteを参考に調べてみて下さい。今月はこの位で。来月はいよいよField recordingへの第一歩、同時録音の事をお話します。

 
 
 
目次ページへ戻る  
 
 
  fostex.jpに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。 Copyright 2009 Fostex Company All Rights Reserved.