AO FILED RECORDING GUIDE-3
さあ梅雨になりました。私はといえば、やっと昨年からやっていた名古屋short filmの最終mixが終わり、先日原宿ラフォーレにてshort film festivalで上映されました。”街明かりの向こうに””熊の神”の2本です。まあ完璧な宅録mixですが、私としては満足しています。ですが会場が映画のstereo、いわゆるL-C-R-Sの状態だったので(主催者側からは普通のstereoでといわれていました)まあ不思議な響きになっていたのが残念です。その後河瀬監督の”火垂”の最新版があがったというのでimagicaの第2試写室にいって見る事になりました。ここには”もがりの森”のstaffも来ていて(そのあと打ち上げもあったそうで)なんだかとても嬉しい気持ちで映画をみました。私はvideoでは見ていたのですが、いやー凄い!映像もさることながら、音が凄い!徹底的に同時録音にこだわった河瀬監督の手法がそのまましっかり再現されています。まあonlyもあるし、pin micも使っているんですが、そんなことはどうでもよくとにかくいろんな音がリアル。今はもう亡くなってしまったそうですが木村さんという録音技師がやったそうですが、まあ私にしてみれば究極のfield recordingにしか思えませんでした。皆様も是非!
そのほかは昨年からやっているartist 岸 真衣子のalbumのrec,mixを2曲やりました。録音は横浜のガンボstudio。ここがとっても自然で良い音なんです。masteringはパードン木村さん。葉山の素敵なおうちで行いました。8月にはリリースします。あとmandogのmastering こちらも限定ですがリリース予定です。そしてno.9 orchestraのunit、grand cafeでのlive recのdata化などなど、いろんな事がいっぱいありました。
私的には6/21に久しぶりに渋谷moduleでliveがあります。その後は6/27にunitで岸さんのliveのPA、6/28にはsuper deluxeで”ギターがきたー”の録音、来月7/16には幡ヶ谷36.5cにて弾き語りのliveがあります。あ、もちろん海には週3回は入ってます。
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1、albumはてるまが始まった
サイデラからリリースされた”はてるま”の前につくられた限定200枚のalbum”はてるま”。この録音は1995年の6/26に行われた。以前から後冨底 周二さん(以下周二さんと記す)が話していたことは、よく沖縄のCDやらカセット(今でも多いです)は何だか響きが狭い感じだったりして、普段外で唄っている自分の環境とは大きく異なっているので、どうにか外の感じでできないか?ということでした。最初は公民館のようなところで、ある程度録音もできそうな場所で録音しよう、と思っていたのですが大きく方針変更、波照間島の素晴らしいambienceを活かした音を一緒に録音することになりました。
もうすでに色々なところで私は島の音を録音していましたから場所の選定には困りませんでしたが、やはり波の音が綺麗に入るところが良いのでは?、とロケハンを開始、北側の大泊の海岸に決定しました。この当時、まだ私にはfield recordingにあまり自信がなかったので、私の録音の師匠である時田 和之さんに録音をお願いして、その時に私もその技を盗むことにしたわけです。よって私は周二さんのケア等、プロデュースに専念できることになりました。
事前に時田さん宅に私は訪れ、録音の内容、そして機材の選定のお話をすることになりました。私が時田さんに話したのは、海岸でAC(電源)が引けないので、最小限の機材で録音したい、ということと、そうしても波の音を込みで録音したい、ということでした。時田さんはあっさり”わかったよ”ということで返事をされたと思います。当時はまだhard disk recordingの機材で野外仕様のものはなく、aiwaのHD-X7000というtimecode入力が可能なDAT recorderを使う事にしました。今考えてみると、何故nagraを使わなかったんだろう?と思いますが、外では軽さも武器になります。電話で取材したところによると、ちょうどこの機材を買ったばかりで、この機材の力がどれくらいあるかも試したかったそうです。
余談ですが”もがりの森”の録音の時はほぼ野外で、PD-6を首にかける特殊なベルトをつかいましたが、それでも一時間も持っているとかなり疲労しました。なのでそういう判断もあったと思います。肝心のマイクですがちょうど買われてすぐだったとおもいますが、nuimannのRMS190というstereo micでやることになりました。このマイクはこれ以降私のベストパートナーとなるものです。190はmic preがついていて・・・というかこのmicをどう言う風に使うかというselector boxがついています。この時はすでにMTX191というものがあり、バッテリーのon/off(ファンタム電源ですね)、low cut filterは3段階(LIN,cut1,cut2)、そしてstereoのmodeつまりXYで録音するのかMSで録音するのかのselect、あとは角度調整(MSの場合はlevel設定)がついています。XYにするかMSにするかは録音技師によって大きく異なりますが、私はXYのほうが分かりやすいので、そちらでお願いをしました。
野外ではバッテリーがとても重要になってきます。aiwaの内蔵バッテリーでは録音は一時間程度しか持たなかったので、外部バッテリーに時田さんが作った鉛電池のドライフィットとよばれる物を使用しました。倒しても液漏れがしないものです。しかもバッテリー特有のメモリー効果がないので、メモリー効果による充電量の低下がないことも魅力です。ACからの充電で一本当たり4時間ほど使えるものです。まあ本当に便利で私も持っていますが、欠点は重い事です。まあ電池切れはまったく白けてしまいますし、本番だったら大変なことになるので、重いのは我慢しましょうねー!
時田さんといえば昔からのfield recordingの方。もちろんSLがなくなる時は全国を駆け回って録音していた人、効果音のお仕事で出会ったのですが、本等にリアルな音にこだわった手法は凄いものがあります。特に得意な音は波、そして車の音だと、私は思っています。F1がきた時も音のチームに手法を教えた人でもあります。この時トラック用のバッテリーを改造して使ったといいますから、どんなに重かったのでしょうか。この時田さんには今後どこかで出演していただき、いろんな音を録音する手法を明かしていただこうかと思っていますので、こちらも今後御期待ください。
さて録音の事は決まって、あとは時期の選定になります。周二さんと打ち合わせた結果、豊年祭のころがわりと風も少なく、海もそんなに荒れていないので録音しやすいのでは、ということになり6/26に決定しました。
2、録音当日
さて実際に録音することになり、全員が波照間島に集結・・・といっても波照間島までは結構な時間がかかるんです。まずはとにかく飛行機で石垣島につかなければなりません。しかも上手く乗り継がないとその日の内には島につきません。当時は羽田発6時30分頃の石垣行きの直行便に乗って9時40分頃に石垣島に到着、石垣から昼便にて島に向うと言うルートが最も早い行きかたでした。最近は行っていないので随分変わっているかもしれませんね。1日3便しかなく、最終便は15時40分頃。これを逃すと、その日の内に島に入る事ができません。石垣からは船(この当時は飛行機がありましたが現在は使われていないようです)、この船は漁船のような感じの船で、1時間かけて波照間にいきます。後半30分は、まわりに全く島陰もみえなくなり不安になりますが、しばらくすると本当に小さく島が見えて来ます。というくらい最南端の島です。まあその日は全員疲れていてまったく仕事にならないので、酒盛りをして終了。翌日に備えます。
周二さんは夜に録音がしたい、という主旨だったので昼間の内に全員でロケハン。夜暗くなってからも大丈夫なように足場の確保を行います。この作業はfield recordingでは重要です。まあとにかくいろんな場所にいってとりあえず録音して、というのもわかりますが、できれば自分がこれから録音しよう、という場所の下調べはやった方が良いですね。現場は波もまあまあ、夜になるともうすこし上がるだろう、という周二さんの話しを受け対策を考えた。mic standの固定の方法、周二さんの立ち位置、方向、録音機材の置く場所などなど、細かくcheckする。どちらにせよライコートとウインドジャマーは必須になりそう。
曲は5曲を予定。まあ自然なのでなにが起こるかわからないのであくまで予定。fieldでは焦ってはいけません。島の代表的な唄”波照間島節”そして”祖平花節””乙女心の唄”あと周二さんのオリジナル”高那崎”(これは島の最南端の絶壁のところ)さらに八重山では唄シャーはみんな憧れるトバラーマ。石垣島では毎年トバラーマ大会が開かれるほどの唄で、唄シャーは自分の技量を試すのです。またこの唄はオリジナルの歌詞はあるのですが、唄う場所によって唄シャーの創作がはいる唄でもあるのです。この五曲は上手く録音したい、と思っていました。
3、さて本番です。
夜になり車で機材を積み現場へと向かいます。昼間より若干ですが波が上がり、良い音になっておりました。さあ、ここからがfield recordingの醍醐味です。
沖縄では三線と唄が基本です。ただし三線が主役ではなく、あくまで三線は唄のお伴、と唄シャーは言います。ところが録音するにはやっかいなことに、三線は小さい音でも物凄くピークが強く、DATにはかなり厳しい感じです。そして唄はダイナミックレンジが大きく、特に周二さんはPAではsennheiserのMD421を使うくらいピークはでかい声、なのでとても大変!周二さんの場所は波打ち際の岩のところに設定、これからリハに入る。といっても自然相手だし、アーティストのテンションも大事なので2回ほど唄ってもらう中で全てのsettingをきめることにした。バッテリーは例のドライフィットを2本。常に電源が入っている状態で使うので一本では心もとない。
このリハでの時田さんの動きが凄かった!マイクを微調整しながらヘッドフォンでcheck〜を何回も繰り返す。まずは波打ち際と周二さんの距離を決める。これはバックの波音といっしょに唄が聞こえるようにバランスをとっていった。マイクの距離は周二さんまで1.5mから2mくらいだった。マイクの高さは三線のピークをさけるように周二さんの口元を狙うあたりでセット。角度はほぼ正面か5度くらい下に向けた感じ。通常のマイクと違いshot gun typeなのでカプセルは中央に近い所になるのでsettingは難しい。level設定はリハで決めたら後は殆ど動かさない、ということだったが実際は直感で1dB以内で微妙に動かしているかもしれない。バランスがとれたようで、私が呼ばれてcheck。とても素晴らしい音がヘッドホンの中に展開していた。
本番は波照間島節からはじまった。波音が響く中で演奏が始まる。field recordinistとしてはたまらない時間が始まった。普段はヘッドホンで聞いている立場だが、実際に耳で聞いている環境は凄かった。これが再現できればすごいなー、と思いながら演奏を聞く。演奏が終わりcheck。私と周二さんが聞いた。素晴らしい音だった。周二さんが「ここの中に俺がおるなー」と言ったのが印象的だった。それくらいリアルな音。その後はpreviewもせずにドンドン進んで行く。あとは時田さんがNGと言わなければ大丈夫だ。さて高那崎が終わりついに佳境のトバラーマに入っていった。これが終われば酒が飲める、と皆は思っていた。このときのトバラーマはとても素晴らしかった。何回か聞いていたので、そのときの内容はとても高かった。あと一行で演奏が終わる、と思った時、何かが周二さんの口の中に入ったような気がした。しかし、どうにか唄っている。見間違えたかな?と思っていた瞬間、周二さんが大きく咳き込んだ。なんと蛾だった!蛾が口の中に入ったのだ!!まったく想定していなかった結果。夜だった為、演奏しやすいように周二さんの近くにバッテリーライトをおいておいた。それに向って虫が集まって来ていたのだ。よりによって蛾までが寄ってきていたとは!周二さんは我慢して唄おうとしたのだが、口の中で羽ばたいたので、「もう無理」ということだった・・・。
なんか一気に緊張感がなくなって、もう録音は止めにすることに。まあ時間も相当たっていたし、みんなやはりお酒が呑みたい時間だったし。トバラーマはまぼろしの演奏になった。やはりfield、なにが起こるか本当にわからない!
4、終わって
私が”写真のように音を切り取る”ということにこだわっているのは、このalbumがあるからだ。対象は音楽録音だが、音をリアルに録音するということで言えば、手法は変わらない。セリフがうまく録音できる人は、恐らくここ波照間でも同じ事ができるだろう。問題はマイクとの距離、角度なのだ。時田さんは同時録音のプロである。特にCMでは本当に沢山の仕事をしている。また映画もやっている。音を録音するのが本当に大好きで、上手い人なのだ。十分すぎるほどの基本的な手法がしっかりしているので、ジャンルを問わないのだろう。作品に関して聞いた所、100%満足できることはないのだが、これにはとても満足しているということだった。この”はてるま”はまさしく私のバイブルであり、field recordingに大きく目覚めた作品である。field recordingの基本は同録です、と以前に書いたと思いますが、全くそのとおりです。残念ながらこの作品は限定品であり入手する事はできませんが、連絡いただければcopyいたします。
さあ次回はこの音の職人“時田さん”に登場していただき、可能な限りfield recordingの技を教えていただこうかと思っております。次回も是非御期待くださいませ。ではこのへんで。