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第2世代への進化で、音楽の重心を捉え、絶妙なバランスを獲得したTH1000RPmk2 / TH1100RPmk2
1974年に誕生したRPテクノロジー全面駆動型平面振動板ドライバーの最新版かつ最上位となるプレミアムRPドライバーmk2を搭載した、フォステクスのフラッグシップヘッドホンTH1000RPmk2 / TH1100RPmk2は、前世代のTH1000RP / TH1100RPの課題であった低域表現力の向上を図り、万難を期したフォステクス史上最高のヘッドホンに仕上がっている。
一般的なダイナミック型ドライバーに対し、振動板全体が均一かつ規則正しい位相で駆動させるフォステクス独自のRP(Regular Phase)ドライバーは、どの帯域の信号でも正確な立ち上がり・立ち下がりを実現しており、そうした入力信号に対して色付けのない正確なサウンド再現性がプロの録音現場でモニターヘッドホンに最適だとして40年以上愛されてきた。また近年はコンシューマー向けにも平面振動板を用いたヘッドホンが増えてきたが、70年代から平面振動板を用いたヘッドホンを作り続けてきたフォステクスの技術的知見の優位さは揺るがないものがある。
プレミアムRPドライバーmk2はTH50RPmk4で用いられている振動板よりも大きな面積の平面振動板を用いた他、プリンテッドコイルのパターンも新たな形状に起こし直した。これに加え、増量したマグネットをはじめ、磁気回路の構成部品を刷新。磁束分布を最適化することで、振動板の不要共振を抑え込み、鋭いレスポンスでの音の立ち上がり・立ち下りを実現した。そして今回の“mk2”化により、ドライバー内部の空気のダンピングコントロールを行うアコースティックフィルターや制振材の追加、そして新設計のイヤーパッドによる空気の流量調整によって、振動板そのものの動きを最適化。こうした改良によって低域における理想的な振動板振幅を実現させた。
この新設計のイヤーパッドは、内部のクッション材を2層構造としており、高弾力タイプの低反発ウレタンをドライバー側、耳に当たる側には柔らかいソフトタイプの低反発ウレタンを採用。表面材は引き続き高耐久性のシルクプロテイン製合皮を用いて、長時間のリスニングでもストレスなく快適な装着性をもたらしている。
ドライバー、イヤーパッドに加え、“mk2”化でもう一つ大きな変更となったのが、ケーブル着脱部のプラグ形状を2ピン仕様から2極3.5mmミニプラグとしたことだ。3.5mmミニプラグは、他社モデルでの採用例も多く、リケーブル製品の選択肢も多いことから、より幅広い対応性を追求。付属ケーブルの導体は7Nグレードの高純度OFCを取り入れ、音質にも留意した設計としている。
ハウジングはギターにも用いられるハードメイプル無垢材を使用。その仕上げには阿波藍による染色が用いられており、落ち着いた上品な色合いとハードメイプルの木目の美しさが融合した、日本ならではの美意識が光る、唯一無二のハイエンドモデルとなっている。
密閉型のTH1000RPmk2はまさに、その阿波藍仕上げハードメイプル製ハウジングの存在を強く感じることができるプロダクトだ。ここで注目すべきはRPドライバーに限らず、平面振動板にとって鬼門ともいえる密閉型というスタイルで、いかに薄い振動板がハウジング内の反響・背圧に負けず、正確なサウンド再生を実現できているかにある。この点について、TH1000RPmk2はアコースティックフィルターの効果もあり、前世代よりも自然な音ヌケ感と密閉型ならではの密度、ダンピング感を備えたバランスの良いサウンドに仕上げられており、平面振動板を用いた密閉型の課題を見事に解消した。
またTH1000RPmk2は“mk2”化における最大のメリットである、低域の増強についても全体のサウンドバランスを整える効果に繋がっているようで、音像の重心もより低くなった。ベースの厚みや伸びだけでなく、ピアノや金管楽器など、高域に特徴のあるパートでも低域方向が強化され、レンジの広い響きを獲得している。ボーカルはボディ感のナチュラルさ、口元のハリや潤いの際立ち感をバランス良く両立。オープン型TH1100Mk2との大きな音の傾向の違いは、この音像の輪郭表現に現れるだろう。密閉型ならではのエッジの利いた輪郭表現、キリっとした芯のある音像のクリアな際立ち、滑らかな質感表現がTH1000RPmk2の持つ強みと言えそうだ。
そしてオープン型のTH1100RPmk2では、ハウジング開口部に2層のアルミ製エッチングパーツを設け、僅かにずらすことで開口率を調整。加えてアコースティックフィルターや内部パーツを綿密に微調整してTH1000RPmk2とは違う、TH1100RPmk2専用のサウンドチューニングを施している。振動板の表裏で均等な振幅運動が可能なプレミアムRPドライバーmk2の持ち味を最大限生かす、空気の流れを阻害しないオープン型は平面振動板方式との相性も良い。前世代ともに開放感溢れるヌケの良い爽やかなサウンドを軸とした特長を持ち、アコースティックフィルターを最適化した“mk2”化によって、低域の豊かさも獲得。よりバランスの整った安定的でゴージャスなサウンドを味わえる。
全体的な音の厚み、ハーモニーの深みは密閉型のTH1000RPmk2よりもゆとり良く表現できており、RPドライバーが得意とする細部まで緻密で分解能の高いサウンドも両立。滑らかで落ち着きの良い音質傾向で、音離れ良いボーカルの生々しさ、柔らかい口元の動きも丁寧にトレースしてくれる。オーケストラのハーモニーは重厚さがあり、太鼓系の響きもリアルだが、ローエンドのダンピングも効いているので、音場の透明度は高い。管弦楽器の質感は芯の厚みもナチュラルで、ウェットな響きは実に上品である。
ジャズのホーンセクションは低重心で伸び良く、ピアノやシンバルの澄んだ響きの爽やかさと融合し、耳当たりの良さを生む。リズム隊の密度感、引き締めも良く、ロック音源のキックドラムやベースの豊かさ、アタックのエアー感を出しつつも、収束のレスポンスも素早い。エレキギターのピッキングの粒も細やかで、パワーコードの粘りの良さもコントラスト良く引き立つ。秀逸なのは女性ボーカルの艶やかさ、ウェットな口元のしなやかな動きである。声そのものの厚みもあり、存在感ある音像がフッと浮き上がる生々しさは特筆すべきものだ。
TH1000RPmk2 / TH1100RPmk2は、RPドライバーの集大成といえるプレミアム仕様をさらに進化させた第二世代を搭載したことで、新興ブランドがひしめく現代の平面振動板採用ヘッドホンの市場でも後れを取らない、この分野の老舗ならではの技術、練り込まれたサウンド性を誇るフラッグシップモデルに仕上げられている。従来からのRPドライバーモデルからの買い替えはもちろんのこと、数多あるダイナミックドライバー型や他社の平面駆動モデルとは一味違う、流麗さと正確さを巧みなバランスでまとめ上げたサウンドを堪能いただきたい。
■試聴音源
〇アンドレア・バッティストーニ指揮 / 東京フィルハーモニー交響楽団『マーラー:交響曲第5番』~「第1楽章」
〇『Pure2-Ultimate Cool Japan Jazz-』~「届かない恋」
〇Suara「キミガタメ」11.2MHzレコーディング音源
〇丁「呼び声」
〇TOTO『TAMBU』~「Gift Of Faith」
プロフィール
岩井 喬
1977年・長野県出身。オーディオ雑誌を中学生から愛読し、高校時代に真空管アンプの自作も開始。音楽の魅力にも目覚め、音響系専門学校に進学後、都内のレコーディングスタジオに就職する。その後ゲーム会社での勤務を経た後、オーディオ誌への執筆の機会を得る。『MJ・無線と実験』『Stereo』『PROSOUND』『オーディオアクセサリー』『analog』などで音楽が生まれる現場での経験を生かしたオーディオ評論を行っている。