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RPの血統ならではの高解像度、空間表現力とともに、上質で聴き疲れのないウェットなサウンド性をも獲得したT60RPmk2ai
フォステクス独自のRP(Regular Phase)テクノロジー全面駆動型平面振動板ドライバーは、1974年に誕生してから50年以上経った現在に至るまで、弛まぬ進化を続けている。RPドライバーは一般的なダイナミック型ドライバーに対して、振動板全体が均一かつ規則正しい位相で駆動できる。どの帯域の信号でも正確な立ち上がり・立ち下がりを実現し、シャープな解像度、ダイナミックレンジの広さ、低歪で優れた過渡応答特性によって、入力信号に対して色付けのない正確なサウンド再生が可能だ。それゆえ、プロ用の録音現場におけるモニターヘッドホンのドライバーユニットとしても活用され、RPシリーズは海外のスタジオでも評価されてきたのである。
その歴史のなかでも、2001年に誕生したT50RPへ搭載した第3世代のRPドライバーは、それまでの円形振動板から角型振動板に変更され、マグネットもより強力な棒状ネオジウムマグネットに置き換えるなど、飛躍的な進化を遂げた。この第3世代はモニターヘッドホンとしての地位をより盤石なものとするとともに、平面振動板を用いた他社製品の範となり、現在のトレンドに結び付く原動力になったといえるだろう。
20年近く活躍した第3世代のRPドライバーであったが、最後に搭載されたのは、リスニング用に特化させたウッドハウジング仕様のT60RPであった。そして2024年。第3世代を基に更なる改良を加えた第4世代RPドライバーが完成。第4世代は振動板の振動領域の拡大と均一化のため、プリンテッドコイルのパターン形状を新設計するとともに、マグネットの数も増量。磁気回路の構成部品も刷新し磁束分布を最適化して振動板の不要共振も抑え込んだ。これによって立ち上がり・立下りのレスポンがより鋭くなり、感度の向上や滑らかな周波数特性、一際優れた過渡特性を実現している。
2017年発売「T60RP」
その第4世代RPドライバー搭載・第一弾として発表されたのはT50RPmk4であったが、リスニング向けとして人気のあったT60RPにも第4世代RPドライバーを採用するとともに、左右両出し式着脱ケーブルへの変更など、さまざまな改良を加えたT60RPmk2も誕生。高価格化が進むリスニング向け平面駆動型ヘッドホンのなかで、リーズナブルながらクオリティの高いモデルとして評価されている。このT60RPmk2をベースに、フラッグシップのTH1000RPmk2/TH1100RPmk2と同じ阿波藍仕上げ・ハードメイプル無垢材ハウジングを取り入れ、T60RPシリーズ初となる国内生産モデルとして仕立てたのがT60RPmk2aiだ。
T50RPmk4(左) / T60RPmk2(右)
T60RPmk2の黒胡桃無垢材から、ギターにも用いられる、より硬質なハードメイプル無垢材に変更されたハウジングは、セミオープン型を引き続き採用。その仕上げには熟練の職人による阿波藍での染色を取り入れ、仕上げがもたらす音への影響を抑え、色付けのないナチュラルで適度に引き締まったサウンドを実現している。落ち着いた阿波藍の色合いと、ハードメイプルの木目の美しさが融合したハウジングの存在感、飽きの来ない上品な仕上げは、フラッグシップ譲りの高品位な装いであり、所有欲を満たすものといえよう。
そしてハウジング内のRPドライバーからコネクターまでの内部配線材には、上級モデルで用いている7Nグレードの高純度OFCへグレードアップ。僅かな距離ではあるが、ドライバーへの信号入力の最後となる部位へより純度の高い銅線を用いることで、伝送ロスを抑え色付けのない一際クリアでヌケ感の良いサウンドへの音質改善が見込める。
加えてイヤーパッドはオプション品であった東レ製Ultrasuedeイヤーパッドを標準装備。蒸れにくく柔らかい上質な肌触りをもたらすとともに、低反発クッションとアラウンドイヤー型構造によって、長時間の装着でも快適さを維持。また、音質面においても全帯域で滑らかな品位の高いサウンドをもたらしてくれる。
2極3.5mmコネクターを用いた左右両出し方式による着脱ケーブルもT60RPmk2から継承。4.4mmバランスプラグ仕様のオプション・バランスケーブルET-RP4.4BL2Yの他、同じ2極3.5mmコネクターによる着脱式のTH1000RPmk2/TH1100RPmk2で標準装備されている7Nグレードの高純度OFC導体採用のアンバランス仕様ET-TH2.0UB2Y/バランス仕様ET-TH4.4BL2Yも使用できるので、内部配線材と同じグレードの導体で揃えることが可能だ。
T60RPmk2aiはT60RPmk2に比べ、より硬くなったハウジング、そして高純度の内部配線材の効果もあり、音像の引き締め感、音場の透明度が高く、全体的にヌケ感の良い爽やかなサウンドへと進化している。リズム隊のアタックのキレ、余韻の自然な階調表現を実感。それは細身になるような傾向ではなく、オーケストラは太く伸びやかな管弦楽器の旋律を艶やかに描き、ローエンドもどっしりと豊かに聴かせてくれる。太鼓系の響きも皮のニュアンスを丁寧に引き出しており、倍音の伸びが良い弦楽器のウェットな艶感ととも華やかなハーモニーを演出。
また、ジャズのホーンセクションはコシが太く安定的で、シンバルやピアノの柔らかなタッチを含め、余韻の爽快さが際立つ。ウッドベースの滑らかな弦の運びと弾力良い胴鳴りのバランスも絶妙であり、非常に心地の良いサウンドである。ボーカルは艶良く伸びやかで、口元の動きも明瞭に表現。ロック音源のリズム隊は、キックドラムのファットな密度感も素直に引き出し、エレキギターのリフも粘り良く煌びやかに描いている。
最後に内部配線材と同じ7Nグレードの高純度OFC導体を用いたオプションケーブルET-TH2.0UB2Yと交換し、7Nグレードで統一したサウンドも確認してみた。一般的な高純度OFC導体の付属ケーブルに比べ、分離の良い透明度の高い音質傾向となり、空間性の描写力も向上。余韻の緻密さ、階調性の高さも改善され、音像の密度を保ちながらも音離れの良い、見通しの深いサウンドを聴かせてくれる。
弦楽器のウェットな艶感、木管楽器のナチュラルなふくよかさ、フッと立ち上がるリアルな音像感、いずれも標準ケーブルより一段と理想的な表現へと高めてくれ、押し出しの良さと開放感のある爽やかな空間性も両立。聴き疲れのない、品良く流麗な質感描写力とともに、モニターヘッドホンとしても評価されてきた“RPの血統”を感じさせる、高解像度で自然な空間表現力を垣間見ることができた。
■試聴音源
〇アンドレア・バッティストーニ指揮/東京フィルハーモニー交響楽団『マーラー:交響曲第5番』~「第1楽章」
〇『Pure2-Ultimate Cool Japan Jazz-』~「届かない恋」
〇Suara「キミガタメ」11.2MHzレコーディング音源
〇丁「呼び声」
〇TOTO『TAMBU』~「Gift Of Faith」
プロフィール
岩井 喬
1977年・長野県出身。オーディオ雑誌を中学生から愛読し、高校時代に真空管アンプの自作も開始。音楽の魅力にも目覚め、音響系専門学校に進学後、都内のレコーディングスタジオに就職する。その後ゲーム会社での勤務を経た後、オーディオ誌への執筆の機会を得る。『MJ・無線と実験』『Stereo』『PROSOUND』『オーディオアクセサリー』『analog』などで音楽が生まれる現場での経験を生かしたオーディオ評論を行っている。