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≪対談≫「T925A-STを聴く──歴代T925系との系譜を辿る」
T925A-ST発売記念スペシャル対談 炭山 アキラ(オーディオライター)/乙訓 克之(FOSTEX スピーカー技術)
30年を超えるロングセラー初の限定モデル、新開発リング形状チタン振動板を採用したホーンスーパーツィーター
発売日:2026年2月27(金)
製品ページ:https://www.fostex.jp/products/t925a-st/
30年以上にわたり支持されてきたT925系のホーンスーパーツィーター。その系譜に限定モデル「T925A-ST」が加わる。
新開発リング形状チタン振動板を採用した本機は、歴代モデルからどう進化したのか。
オーディオライターの炭山アキラ氏と、FOSTEXスピーカー技術・乙訓克之が、実機を前にその違いを丁寧に探る。
歴代モデルと重ねて聴きながら、T925A-STならではの響きをゆっくりと見つめていく。
乙訓:それではT925A-STを紹介します。
炭山:昨年T90A-STが出ましたけど、そのT925Aのバージョンという理解でいいですか?
乙訓:そうですね、(意外にも)T925からT925Aになって以降、初の限定モデルなのです。
概要は、T925Aの磁気回路にチタンの振動板の組み合わせです。この振動板はT90A-STで採用した振動板と同じです。そして外観ですが、ホーンの材質はレギュラーのT925Aと同様にアルミ材で、アルマイトの仕上げが異なります。それとT925Aにはホーンの正面の化粧リングが付いていますが、限定モデルのT925A-STには有りません。更に、ターミナルは金メッキに、内部配線材(ターミナルからボイスコイルワイヤーまでの線)には銀合金銅線の単線を採用しています。
乙訓:出力音圧レベルの比較ですが、レギュラーのT925Aは108dB、限定のT925A-STは100dBと、同じ数字ではありません。数値の差は実際にはどう感じられるのか?今日はじっくり聴いてください。
炭山:私はツィーターが出しゃばるのが好みじゃなくて。フルレンジ一発で聴いていたときのバランスを崩さずに、音色が良くなる、音場が広がる、声が緻密になる、そこを狙ってチューニングします。
乙訓:ツィーターをアドオンして音圧を上げるのではなく、音質の向上を目指すやり方ですね。今日のセッティングは、その意味で炭山さん好みの方向になっていると思います。CX0.33(0.33μF)を一本、プラスのターミナルに直列接続しています。カットオフ周波数を計算するとは60.3kHzですが、徐々に減衰しているので声の帯域の音も聴こえます。
ツィーターの音圧を強めに感じられるセッティングと言うのも有りますけれど、今は音質を補うセッティングにしてあります。
炭山:ええ。ツィーターがあることを忘れるくらいがちょうどいい。
乙訓:こちらが今日聴いていただくツィーター群です。まず今日の主役、限定モデルのT925A-ST。そのベースであるレギュラー商品のT925A、それと“大先輩”のT925ですね。それから以前に試作品として作ってみたものもあります。
炭山:このT925も聴けるんですか?
乙訓:はい、お聴きいただけます。この個体は私が会社に入ったばかりの頃に、先輩に分けてもらったものです。
炭山:そう。バックロードホーンにはフルレンジ2発が原則だった
乙訓:並列じゃなくて、直列接続。
炭山:音圧を上げたいわけじゃなかった。ツィーターの「低域」が欲しかったんです。
乙訓:調整は非常に難しい選択ですよね。
炭山:フルレンジとトゥイーターを両方とも横置きにしたから、0
乙訓:困難な道のり、楽しくない(笑)。
炭山:でも、それをやるって書いた記事でした。
乙訓:そろそろ聴きましょうよ、まずフルレンジをアンプにつなが
——(試聴)——
炭山:……井筒香奈江って高域がよく伸びてるんだなぁ。スッと上まで抜けていく感じがとても気持ちいい。余韻の消え際がすごく自然で、声の輪郭がきちんと立ちながらも、刺さらない。このバランスはなかなかいいですよ。
乙訓:このままツィーターを取り替えて聴いてみましょう。
炭山:次は、私の現役のT925Aでお願いします。
炭山:……ああ、だいぶ違いますね。まず空気感の出方。先ほどのT925A-STの方が、空間が一段と広く感じられました。こちらも十分に伸びていますが、比べると天井の高さというか、抜けの余裕が違う。音の立ち上がり。アタックの瞬間のスピード感が微妙に違うんです。ほんのわずかな差なんですが、その積み重ねで全体の見通しが変わってくる。どんどん次を聴いてみましょう。比較していくとキャラクターの違いがよく分かります。次は“大先輩”でお願いします。
——(試聴)——
炭山:なるほど、こうやって聴き比べると長岡先生が2発使いたかった理由がわかる気がしますね。当時のT925は音の線が若干細かったんだな。。今のT925Aは、もっとウォームで太いですね。
乙訓:次は試作品です。
——(試聴)——
炭山:これが一番音が硬いかな。今回の製品版のほうが、明らかに使いやすいですね。
乙訓:この当時に使える要素を盛り込んだ仕様です。磁石は2個、ホーンとイコライザーはステンレス、振動板はチタン、と豪華なんですが、その割に聴いてもあまり面白くなくて…。(笑)
では、T925A-STとフルレンジ(FE208SS-HP)と合わせて聴いてみましょう。
炭山:フルレンジとつなぐと、言われなきゃツィーターが繋がってるか分からない。FE208SS-HP、ちゃんと鳴らすとこんなに綺麗なんだ。
乙訓:スピードとパワー中心のSol系と、こちらのSS-HPは性格が異なりますので。両者をちゃんと分類したかったんですよね。
炭山:SS-HPに合うバックロードホーンを自分が設計できていないのがちょっと悔しいです
乙訓:…そこは、、、頑張って。(笑)
炭山:もともと長岡先生は、横に2発のバックロードホーンを考えていたのに、最終的には一発になった。理由を伺ったら、「でかいスピーカーが視界に入るのが嫌なんだよ」って(笑)。
—-素材の違い、振動板の違い
炭山:アルミとチタンの振動板って、やっぱり全然違いますよね。
仲前:全然違いますね。営業的には、アルミは“軟水”、チタンは“硬水”って説明してます。
炭山:ああ、分かりやすい。
左:チタン 右:アルミ
乙訓:チタンは芯がカチッとしていて、豪快。けれど決して乱暴な訳ではないです。いわゆるチタン臭さは感じないと思います。アルミは響きが自然でシャキッと伸びて元気で鳴りがいい、どちらかと言うとニュートラル。
炭山:アルミは万能型?
乙訓:そう思います。でも元気なフルレンジに足すなら、チタンの「パン!」と来る感じが合うのではないでしょうか?
炭山:こうして技術的な背景を聞いて、実際に聴き比べて、さらに素材の違いまで確認すると、今回のモデルが単なる“限定仕様”ではないことがよく分かりますね。
乙訓:ありがとうございます。磁気回路はT925Aをベースにしつつ、振動板をチタンにすることで、音の立ち上がりや空間の抜けを変えたかったんです。数字以上に、聴いたときの印象を大切にしました。
炭山:確かに、スペックの違い以上に“響きの質感”が違う。アルミの自然さとはまた別の、芯のある伸び。音楽の景色が少し変わる感じがあります。
乙訓:冒頭でお話ししました出力音圧レベルについても、実際には数値ほどの差は感じず、例えばT925Aをお使いで、0.33μFを1個直列接続でちょうど良い状態の場合は、そのままツイーターをT925A-STに入れ替えただけでもOKかと思います。もしそれで、やや物足りない、もう少し出しても大丈夫と思われましたら、コンデンサーの容量を0.47μFに交換すると、ほぼ同じレベルになると感じました。
炭山:歴代T925を聴いてきた人ほど、この違いは面白いでしょうね。系譜の中にありながら、きちんと新しい。
乙訓:30年以上続いてきたモデルだからこそ、こうした提案ができました。
炭山:T925A-STは、その積み重ねの先にある“もう一つの答え”ですね。今日はとても刺激的な時間でした。
乙訓:ありがとうございました。
プロフィール
炭山 アキラ
1964年、兵庫県生まれ。1990年、バブル期の人手不足に乗じて共同通信社AV FRONT編集部へバイトとして潜り込み、いつの間にか隣のFMfan編集部で故・長岡鉄男氏の担当編集者となる。2000年、長岡氏の急逝により慌ててライターへ転身し、現在に至る。